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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)1014号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について

論旨の(一)は原判決が証拠として挙示した所論告発書中の記載を捉えて右告発が所論指摘の憲法の各条規に違反するものなりとし原判決が右告発書を採証したことを非難するに帰する。しかし第一審公判において検察官は所論告発書の取調請求をしたところ被告人及び弁護人は右証拠調の請求については別に意見はないと述べたので証拠調が実施されたのである。そして右の証拠調実施後裁判官から意見があるか否を問われたところ被告人及び弁護人は「いずれもない」と述べたのである。

右の如く被告人及び弁護人が証拠調の請求及び証拠調実施後裁判官から意見を問われた際に別に意見はないと述べた場合には刑訴三二六条にいわゆる「被告人が証拠とすることに同意した」ものと認められるのであるから右告発書が作成されたときの情況を考慮し相当と認めるときはこれを証拠とすることができるのである。本件告発書は西茨城地方事務所長作成にかかるものであり公吏たる地方事務所長が職務上犯罪があると思料して告発したものであるから原審は右告発書の作成されたときの情況を考慮し相当と認めてこれを採証したものであることは明らかである。従って原判決がこれを他の挙示の証拠と綜合して判示事実を認定したのは正当であり、論旨は適法な上告理由とならない。

論旨の(二)は原判決が証拠として挙示した証人柴山直杷、大久保静太郎、池田有の証言の証明力を争うに過ぎないものであるから適法の上告理由とならない。

論旨(三)及び(四)も原判決の憲法違反を主張するものでないから適法な上告理由とならない。

弁護人中川真太郎の上告趣意第一点について

論旨は供出の割当に対する異議申立を云々するが昭和二三年一二月一八日農林省令一一五号(食糧管理法施行規則の一部を改正する等の省令)の附則二項には「改正前の食糧管理法施行規則第一条第一項の米麦等で昭和二十三年産のものについては改正前の食料管理法施行規則第一条、第二条、第三条第一項・・・・・・の規定はこの省令施行後もなおその効力を有する」と規定しており本件は昭和二三年度産米の供出であるから右規定により改正前の食糧管理法施行規則一条、三条一項が適用され食糧確保臨時措置法(昭和二三年七月二〇日法律一八二号)の適用はないのである。従って本件については同法第六条に規定するが如き割当に対する異議申立権は認められていないのである。論旨が異議申立を云々するのは本件について異議申立権があることを前提とするものであるから論旨はその前提において既に誤りがある。又論旨は憲法三六条違反を主張するが同法にいわゆる「残虐な刑罰」とは人道上残酷と認められる刑罰を意味し裁判所が法律において許された刑を言渡した場合を指すものでないことは夙に当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六月三〇日大法廷判決)とするところであるから論旨はその理由がない。

同第二点について

しかし所論高等裁判所の判例は本件に適切なものではないから原判決が右判例と相反する判断をしたものということはできない。また憲法二五条一項の法意は国家は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担しこれを国政上の任務とすべきであるとの趣旨であってこの規定により直接に個々の国民は国家に対して具体的現実的にかかる権利を有するものでないことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日大法廷判決)とするところであるから原判決が被告人を有罪としたことをもって右憲法の規定に反するものということはできない。従って論旨はその理由がない。

なお本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四〇八条、一八一条により主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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